風日記soft6

普通の日記です。

3手詰ハンドブック

浦野7段の話の内容については,関西でもまた開催されるかもしれないので, ここでは触れないように昨日のエントリーを書いたけど, 「3手詰ハンドブック」について書こうとすると,多少浦野7段の話の内容に触れなければならない。 ご容赦ください。

5手詰ハンドブックの時に,一番苦労したのはルール解説のページだということは, 前から聞いたことがあったが,意外だったのは「変同を答えても正解だ」ということを はっきりと書きたかったということ。このことについての質問が多い(ということは誤解も多い) そうなのだ。 私も,解く人のためのルールと作る人のためのルールはくっきり分けて書いたほうがいいと思って, 詰将棋とはでは, 「基本ルール」「問題提示の補助ルール」「解凍のための補助ルール」「創作のための補助ルール」 という分け方をした。(「採点のための補助ルール」は無視) でも,変同についてはまったく触れなかった。盲点だったなぁ。

5手詰ハンドブックは対局の前などに数分で1冊詰ますような問題集が欲しくて 作ったそうだが,それでも不成など実戦には稀な手筋は採用しなかったそうだ。 3手詰ハンドブックはルールを覚えたばかりの初心者に次に手にとって欲しいテキストとして 誰かがやらなくてはいけない仕事として作ったとのこと。 確かに,苦労ばかりで報われることのなさそうな仕事だ。 桂香の配置された右上で,易しい3手詰を,使用駒10枚以内で,200題作れと言われたら, 私なら,どうぞ勘弁してくださいと,泣いて謝る。

不要駒もあえて配置したと言う。 これも詰将棋作家の常識を覆す英断だ。 確かに,初心者が実戦で応用できる詰手筋を学ぼうと言う際には, 推敲し尽くされた最小限の配置では,形式論理みたいなもので, 最適ではないかもしれない。 歩1枚配置されることで,実戦の時に,「ああ,あの筋が使える」と喚起する力が増すようである。

また,これは浦野7段が語っていたわけではないが, 変化を減らすように作っている。 これも,詰将棋作家の常識とは逆だ。 3手詰を作ろうとする際には,作意だけではものたりなく感じられるので, 変化や紛れのボリュームを増やすようにしたいものなのだ。

詰将棋ファンにとっては,この本,必読とはいえないかもしれない。 実際,易しいし(私でも御茶ノ水までだった)作者が苦労して書いたはずの解説ページは 読まないと思う。 しかし,この開拓精神。常識に逆らっても目的の達成に突き進む精神は, まぎれもなく一流の詰将棋作家のそれだ。 お守りとして,大事に飾っておこう。。。。というのは冗談で, 将棋を覚えたての子どもに貸して読ませようと思う。

5手詰ハンドブックにサインを乞うた時,「新品みたいに綺麗ですね」と言われて, どきっとした。 (1回しか,読んでないからなぁ...) 無事にサインを頂いて,さて自分の席に戻ろうとした時のことだ。 私の席の前の前に座っていた方が手に持っていた本が目に留まった。 「ん?表紙に5手詰ハンドブックとあるけど,白いな」 5手詰ハンドブックの装丁は真っ赤である。 驚いた。その方が持っているのは紛れもなく5手詰ハンドブックなのだ。 ところが,一体何度読まれたのだろう。表紙が擦り切れて,ほとんど真っ白になっている。 ところどころに往時の赤が残っている程度で,まるで法隆寺五重塔だ。 。。。。。あんなに読んでもらえたら,本も幸せだなぁ。